枯朽さんのクラシックフレンチ回

夏ぶりの枯朽さん!!!いつもの、いろいろな国の料理を縦横無尽に取り入れるような創作料理もとっても魅力的なんですが、本懐のクラシックフレンチということでめちゃくちゃ食べたくてね…だって出張料理とかで作られているフレンチがとっても美味しそう…12月はクラシックフレンチやりますよという告知が出てから(絶対に予約取りたいから善行を積もう)と思ってたんですが、善行の甲斐あってか、たまたま学校の休日が…この話もういいですね。味の話をします。

メニューです。

昼12時から完全にフルなコースだぜ…でも大丈夫、そのつもりでいたのでバッチリ空腹に整えてきました、どんとこいですよ!!!

飲み物は今回はペアリングではなくて、アルコール(シャンパン、赤白ワイン1種ずつ)をお願いするものでした。ペリエもあったし、お願いすればガスなしの水もいただけます。メニューを眺めて最初は白をお願いする。お休みばんざい!

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1品目はパテです、h.b.さんのパテ…!!!!!!!(急に自慢しますが今月h.b.さんのパテが届くんだ、いいでしょう)

ずっとtwitterでパテの試行錯誤の様子を見ていたので、ついに喫食の栄誉に浴し…という気持ちで食べた。通常のパテ・ド・カンパーニュは豚だけで作るものですが、このパテ・ア・ラ・メゾンはレバーを鶏に置き換えたりしたしっとりなめらか仕立てとのこと。口に入れると本当〜〜〜〜になめらか、角切りになって入っている脂やなんかがあるから、口の中の食感としては遅くて重いのにさらっと消えて軽い。いや軽くはないんだけど…スパイスもすごーくうすーくだけ印象があって(臭み消しとかの役割はしっかり果たすけどパテがスパイス味になるわけじゃないって感じ)、ほんのり胡椒とアニス?が香るさっぱりとした後味、ワインと合わせると肉の味が流れてさらりとナッツのような味だけが残るのもまたすばらしかった。

私はシャルキュトリーについてくる小さいコルニッションがだ〜いすき…

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2品目はコンソメ、なんという美しい液体…

お郷が知れそうですが、おいしいコンソメに対して「うまい鍋が終わったあとの〆のだし」という印象があります、製法的にそうだし…すみません。

もうす〜〜ごく美味しくて、そして不思議なのが、とても軽いんですよね。さっきのパテもそうだけど、h.b.さんのフレンチってとても軽いんじゃないか…?とこの辺で思い始める。

あのね、コンソメって、肉の味と野菜の味の太い2層が絡まり合ってる味だと思うんですよ、それでね、私の知っているコンソメはたいてい肉の香りが重い方にいるんです。でも、h.b.さんのコンソメは、野菜の甘味さえ重いほうに感じるくらい肉の旨味が軽い。なんでなの?すごく滋味深くて、肉と脂の味がとことん出ていると感じるのに軽い。不思議なコンソメです。全員飲んでみてほしい。一瞬で飲み終えてしまってじっと碗の底を眺めてしまった。無限に湧き出てほしいvs.こんな魔法のような液体はほんの少しだけにしといたほうがよろしい。

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3品目はうずらとフォアグラのシャルトリューズ。バロティーヌに目がない人間なので大歓喜、ひとりでいったので心の中で(ヒェ〜〜〜〜!!!!!!!)って叫んだ。

みてよこの…きれいねえ!もとは修道院の、野菜ですよって体裁で肉を食べちゃおうぜ料理とのことで(ほんとにどこもかしこも)、いんげんと人参がまわりに貼り付けられている。バロティーヌは鶉の肉、ハーブをねりこんだの鶉のミンチ的なもの、芯にフォアグラ。サラダはカリフラワーとロマネスコがきゅんと酸っぱく仕立ててあってセルフィーユなどのハーブをまぶしてあるサラダ。ソースは鶉のだしとシャルトリューズ(酒)を合わせたもの。

これはさ〜〜…ぜんたいをハーブの清廉さがつらぬくめちゃくちゃ清潔な鶉料理よ……この料理の完璧さを構成するなにもかもについて語りたいよ…

まずソースとサラダからいっていいですか?ソースがすばらしい液体なんですよ…コクのある鶉のだしをシャルトリューズの高貴な甘さがふんわり包んでて、わたしが修道院長だったらこのソースを聖母のほほえみって名付けると思う。サラダで使われている酸と生ハーブがシャープな味なので対比があざやか。

バロティーヌ本体は、にんじんといんげんが程よい固さにバターでしっとりあっさりと煮含められてるのもいいし、そのいんげんとにんじんの接着がさ〜〜〜リヨン料理でセルヴェル・ド・カニュってエシャロットとかハーブとかが練りこまれてるかるいフロマージュブランがあるんだけどそんな感じ、その存在があるのでソースを付けずに食べても口の中にさわやかな潤いが与えられて食べ心地がいい…!
さらに内側の、鶉はしっとりムチムチかつ肉!って感じの歯触りで、ミンチはもう取り出して単体でシャルキュトリーとして出されても大喜びするんですがってくらい旨味が凝縮しててす〜ごい。

別々のテクスチャーのものが層になってるのにこのすばらしい火入れよ…。こんなサラダチキンがあったら毎日食べたいけど一瞬で破産しそう。フォアグラはこのメンバーにくるまれて完全に清廉な佇まいで、そんなことあるんだ……だって私が知ってるフォアグラはたいていちょっと♡淫靡♡な仕立てだもん。バロティーヌ単体はわりとすっきりした美味しさで、さっきのソースをつけるとすごくまろやかになる。まろやかなのに清潔なままって印象なのがほんとにLOVE。

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4品目はサラド・トリュフ。

一番下にじゃがいものガレット、サラダ、トリュフという構成。

いちばん上に載ってるトリュフにドキドキしてしまうけど本丸は一番下のガレットだからね。直径2cmくらいに抜かれたごく薄いじゃがいもを寄せ集めて、トリュフのみじんに切ったのを挟みながらガリガリに焼いてあるのですが、これが、これがさ〜〜〜時の権力者だったらこの料理になんとかドールって名前つけると思う。神々しすぎて。じゃがいもの小さな円が寄り集まって皿のサイズの大きな円を作っていて、そのね、大きな円の周縁部分だけがガリッガリに焼いてあって、そうじゃない部分は焼き目がなくてムチムチなのよ、この食感のコントラストがさ〜〜〜構成材料の少ないサラダをこんなにも豪華にしていると思う。

あとトリュフはじゃがいもとバターと一緒に火が入ってるほうの香りがすんごいので、生で刻んであるトリュフがサクサクコリコリの食感の甘いきのこ役に回っていて、そんなことさせちゃうのかよ〜〜〜〜しかしそれがおいしい…。サラダ部分は丁寧にヴィネグレットをまぶしてあるベビーリーフなんだけど、このさ、しっかり葉っぱの一枚ずつがドレッシングをまとっているのに余分な液が一滴も落ちてこないサラダには本当にお金を払う価値があると思っているよ私は。まじで。この仕事の美しさを讃えたいよ。

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5品目、ブーダンノワール(拍手)。ここで赤ワインをもらう。シラーだったかな…?ワインの写真撮らせてもらうのを忘れてしまった。

ガトー仕立て(ケーキ様)になっていて、一番下から、スパイスの効いたタルト生地、煮リンゴ、ブーダンノワール、りんごの皮からつくったピュレのシート、右端に乗ってるのが生のりんごの型抜きとマイクロミント。

は〜〜〜だってもう上の説明だけで美味しかったでしょ?でも説明して想像するよりおいしいんだ。

タルト生地はさ〜シナモンとかスターアニスとかそういう、ジンジャークッキー的なスパイスの香りなんですけど、そんなのブーダンノワールに合うに決まってるじゃん。煮てあるほうのりんごは、しっとりなんだけど絶妙に歯応えが残ってるのよ、あと甘酸っぱ仕立てじゃなくて(それも美味しいだろうけど)ちょっと肉の出汁っぽい味がするのよ、気のせいかもしれないけど、それでブーダンノワールとの味の傾斜がなだらかで上品なのよ、そんなの美味しいに決まってるじゃん。上に載ってるプルプルのゼリーの膜もさ〜ほんのり酸っぱいけどりんごというよりはもはやごく軽いワインみたいな味わいなわけよ。ブーダンノワール本体はいうまでもなくなめらかで品がよくてそんなのさ!!ずるくない???たぶんここまで読んでもらっても想像より実物の方がおいしいからそこのとこよろしくね。

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6品目はパイ包み焼き。切り分ける前のパイを見せていただけるんだけどずるいよ〜〜〜〜こんなのずるいよ〜〜〜〜〜!!!!!

ここまでそれなりに食べてるのにローズマリーの茂みとパイの焼けた匂いのせいで一気にお腹すくんですよ、まったく罪なシェフ…。パイの装飾の優美さもたまらんよね。

切り分けてでてきたのがこちら。

パイ包みは外側から、パイ、ほうれん草、帆立?(忘れてしまった、白身魚だったかも…)のムース、きのこのデュクセル、オマール海老。ソースはフィーヌゼルブ(刻んだハーブ)たっぷりベアルネーズとエビの殻からつくったアメリケーヌ。

わたくしごとなんですが先日パイ包をやってへとへとになりまして、プロの美しいパイ包に対してありがたく思う気持ちがもとの数倍になってるんですよ。ありがたい…。

ベアルネーズってマヨネーズと同じで卵をかき立てて作るんですがなめらかで軽くってふんわりとろ〜りでハーブがしっかり効いててこれだけでいろんなものが食べられそう。いろんなものつけて食べたい。

パイのさ、この隙間のなさの美しさったらないよね。ムース(に火が通った簡単にいうとはんぺん)の部分は、不思議なんだけど、瑞々しいのに水っぽくないのね、そして食感がしっかりしてて、シュワっと溶けるわけではないからオマール海老と足並みが揃ってるんですよ。海老も、プリプリじゃなくてしっとり仕立てなの。この、ムースと海老を、きのこのデュクセルの土っぽい香りが地上に引き上げてくる。それを全部くるんでさらに味を引き立てるベアルネーズ様…。アメリケーヌはたまに口にはいるとすごい嬉しい。旨味を追加するだけで振り回してこなくて、こんなにやんちゃな味なのに紳士でさ…フランス文学の子どもたちか?(?)

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7品目、銀の鴨。これも切り分ける前のココットを見せてくださったんだけどたまらんよ〜〜この胸に飛び込みたいよ〜〜〜。

サルミというのは古典調理法で、ソースの中で肉を加熱するものなんだそう、詳しくはシェフにお聞きください。

切り分けられたのがこちら。

エギュイエットだ〜〜〜〜!!食べ良い薄切りになっている胸肉に、肝などまで渾然一体となったソースがかかってて、上にぺろんと載ってるのはささみかな?皿のむこうにあるのが、ハツとレバーのコンフィで、縁に載っているのがグラチネをつけたトースト。

鴨大好きで、メニューにあったら食べたいし自分でも焼くんですけど、このh.b.シェフが推してる銀の鴨、これは今まで食べたことのある鴨とは別物じゃないですか…?血が多い鴨とのことなんですが、血の味がしないんですよ、何言ってんの?って感じですけど、血の味がしないんです!!!いや血の味…、鉄のくささがないんですよ、わたしは鴨の鉄っぽい味も大好きだけど、ちょっと経験したことのない感じで…鴨自体の品質の良さと、火入れの絶妙さが合わさった結果、たべてる間ずっと「良いぶどうを噛んでる」ようだった。わかる…?ぜひ実際に食べていただきたいのですが…ぶどうを噛む時の、歯に抵抗するきゅるんとした弾力と、力を入れるとぷちゅんと弾ける感じ、それが鴨を噛んでる間ずっとある。肉って噛んでるうちに「噛まれた繊維」になる瞬間があると思うのですが、もうず〜〜っときゅるんでぷちゅんなんですよ、味もずっと瑞々しいままなの。不可解〜〜〜〜!☝️

ソースもコクのすべてを注ぎ込んでるのに優雅としか言いようのない味だし、ささみはぷるんぷるんだし、その合間にレバーとハツを食べるとね、はっとするんですよ、この皿の中で一番肉らしいのってこの二つなんじゃないかな…。胸肉のさわやかな歯応えから一転、ギュッと密度の高い血の香りがするレバーと、コリコリサクサクで旨味のあるハツよ…ここだけキリッと塩味がつよいのも憎らしいんですよね…(ラッパーなので韻を踏んだ)。

最後にこの、角の立ったトーストに載ってるグラチネが甘いのよ、玉ねぎの甘く炒めた味が鴨に圧倒されてる口の中を甘やかしてくれる、この3点を無我夢中で食べているといつのまにか食べ終わってしまっているというわけ…。悲しい。なぜ食べ物は食べると終わってしまうのか。

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デザートは洋梨のシャルロット。

ビスキュイで囲まれている中に、洋梨のコンポート、カスタードクリーム、一番上に洋梨と花梨のコンポート。パスティスとライムのアイスクリーム、全体の上からライムのゼスト。コース食べ終わった舌に優しい…こういう清々しいデザートが出てくると「コースもう一回最初からやり直せます」という口になるね。無間だねえ。アイスがパスティス(薬草酒)だからなのかな、ふんわりココナッツみたいな味がして、外の寒さを忘れさせてくれる。(ところでデザートってもしかして枯朽のもうひとりの方が考案されてるのかな…?)

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お茶菓子は、ディアマンにレモンカードが載ってるのと、チョコレートテリーヌ、sol’s coffeeの中深煎りコーヒー。

いよいよもう一回やれますって感じなんだけど!?となるお菓子、このさ〜ディアマンが口の中でほろほろに砕けるのをレモンカードがつなぎ止めてくれてて、「その手があったか!!」という気持ちになる。こういう口の中がギューっとあったかくなる系のクッキーにつめたい味のクリーム、最高ですね…?テリーヌはオレンジリキュールの香りがして、このね、お茶菓子ふたつの柑橘の香りが、コーヒーの甘酸っぱい重すぎない香りとものすごく合うんですよ、なんか、そうだったコーヒーもいろんな香りと味がする飲み物なんだからお茶菓子をペアリングできるんだ、って思った。h.b.さんのこの軽さのあるフレンチコースの最後に、深煎り!圧倒的強者!って感じじゃないコーヒーがあるのすごい納得感でした。

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この感想書くために脳内で最初からコースを食べ直したのでいまたいへんお腹が空いている。

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これだけのコースを3時間ちょっとで…しかもおふたりで…。

h.b.さんのすごさってその鬼のような丹精さにあると思っていて、それは、名前のある、脈々と作られてきた形のある料理の表現でも際立つんだなあと思いました。技術こそパワーって感じだった。あとやっぱり楽しそうだった。

h.b.さんの料理をいただくと、ちゃんとやろう、上達したいことはひたすら練習して、どんな小さな成果物も丁寧に仕上げることに心を配ろう、という気持ちになるので、値段は少し張るけど、新年に向けての元気付けにいくと良いかもしれない。パワースポット。いつか厨房のみえる場所で開催してほしいな…。

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